グレーゾーンの子どものための学習支援教室 学びのいろは

通常のクラスでうまく適応できない発達障がい、軽度知的障がい、不登校の小中学生を対象とした学習塾 : 浜松

学習障害(LD)で授業についていけなくなっていたA子

 

 

 A子とは中1の2学期にとある方からのご紹介で指導することとなりました。学校の成績は小学校高学年から下り気味で、中学校に入ってからはそれが顕著になってきていました。

 

 朝も起床が困難で毎日のように遅刻するという生活となっていたようで、学習面でも漢字の習得に苦慮しており、中学になってからはアルファベットの習得にも苦慮している状況で学習障害ではないかと思われていたようです。このまま放置していると不登校に陥る可能性が高いという心配がありました。

 

 学習塾である私の仕事は、当然、学習面での支援でした。はじめに簡単な学習を進めながら学力の状況を見てみると、小4までの学力は普通に身についているのですが、5年生以降、すっぽりと抜け落ちている状況でした。問題は、小学校の学習から復習すること自体、プライドが傷つき、抵抗を示されそうだと思い、思い切って難しいものに取り組ませてみました。

 

 アルファベットの練習は万年筆を用意し、筆記体の練習をさせてみました。ちなみに今、中学では筆記体は指導しなくなりました。漢字は読みを中心に学習させ、書きは筆ペンを使い、私の本棚にある書物から漢字を抜粋してそれを書写させました。書写の後、10分程度ですが私が本を読み聞かせました。そのほか日本語の格助詞の学習。数学は苦手な計算は

一切やらず、図形問題や作図に取り組みました。

 

 万年筆や筆ペンを使わせたのは、視覚的な情報処理が苦手だろうということで、心地よい感覚を指先から得られることで形を構造的につかんだり、書くことそのものを楽しいと感じてもらえるようにしたいと思ったからです。筆記体や難しい漢字の書写、そして読み聞かせについては、誰にでも通用する方法とは思いませんでしたが、A子の場合、学習に向かう気持ちを開かせることに成功したきっかけになったことは間違いありませんでした。そして、この一見意味のなさそうな学習期間は、彼女の学習への意欲を取り戻すとともに学習する習慣を定着させることができた期間だったと思います。

 

 2年生になってからは、学校の学習にも取り組み始めるようになりました。英語や国語は書けるようになることよりも読みに力点を置きました。音の情報処理のほうが比較的に優位性があると思われたことと、読めない(発音できない)だと知っている言葉であったとしても理解できない。また、授業中どこを説明しているかわからないという状況を回避したいという思いもありました。数学に関しては、成績が悪いので苦手だと思っていたのですが、意外や意外、数的な処理のセンスがありました。

 

 もっと驚いたのは多くの生徒が苦戦する図形の証明問題がわかっているのです。しかし、点数にならない。一つにはきちんと途中の式を書かない。簡単な計算ミスがある。もっとつっこんでみてみると、思考過程を数式で書く、ということをこれまできちんとやってこなかったのでわかっていなかったこと。計算ミスも係数1の場合、数字が省略されているだとか、逆数という意味が分かっていなかっただとか、基礎の基礎が理解できていなかったことを、「ミス」として片づけてしまっていたことが問題だということがわかりました。

 

 3年生になりました。その時初めてA子にも保護者にも「数学、特に図形のセンスがある」という話をしました。2年終了時点の数学の内申点は「2」でしたので、特に保護者は信じられないという反応でした。しかし、A子の方が素直というかその言葉を信じ、進路も工業科に目標を定めました。そして週1回だった授業を2回に、そして夏休み以降は毎日くるようになりました。夏休みは朝の9時スタートだったので、自分で自転車で来ました。朝起きるのが苦手だった彼女にしてはそれだけでもすごいと感じました。

 

 その甲斐あって、暗記系の理科、社会、そして数学が伸びてきました。英語、国語もがんばりました。特に英語は白紙同然だった状況が一変し、しっかりと解答用紙を埋めることができるようになってきました。しかし、時制の変化、人称代名詞の変化、複数形、三単現のS、ピリオドetcの細部にわたる文法的な部分や表記ミスで点数につなげるまでにはなかなか至りません。

 

 2学期の終わりころ、担任の先生との進路相談がありました。本人が希望を伝えたところ、「そこは無理だからやめておけ」と言われました。テストの点数は伸びてきているのにもかかわらず、内申点がむしろ下がっている。ほかの生徒も頑張っているので、そういうことはありうります。でも、頑張りに反して成績が伸びていないことはA子にとっても保護者にとっても辛いことでした。辛いだけではなく、内申点によって受験できる学校に制限が出る。この内申点だと第一志望校の受験は見合わせたほうがいいという状況でした。この状況でどうするかと相談したところ、「冬休み毎日勉強したい」とA子から申し出があり、私たちも正月1日も休まずにA子の指導をすることにしました。一番嫌いな繰り返し学習も取り組むようになりました。きれいに書くことが苦手で頓着なかったのに、ミスを避けるために丁寧に答案を書くようになりました。1点、1点を積み上げるという一番性格的に向いていないことを大切にするようになっていきました。

 

 3学期になり、担任の先生から私学単願にしなさい、という指導が入りました。第一志望の県立を諦めなさいということです。私には担任の先生の指導は「あたながその学校を受けると、あなたよりはるかに内申点のいい他の子が落ちるでしょ」と言っているようにしか聞こえませんでした。これだけではなく、いろいろな人がおせっかいにも「ここは難しい」「去年はこうだった」「誰々は志望校をかえた」など聞きたくなくても、いろいろな情報がA子と保護者の方に入ってきました。A子以上に保護者が混乱していました。これもA子にとって苦手な状況だったと思いますが、私は客観的な現状分析と今やるべきことをA子に伝え、勉強に集中できるように気持ちを切り替えさせました。

 

 私学で合格がでると、もうA子は迷わず、第一志望校への学習に取り組みました。今、A子が取り組んだプリントが私の机に積み上げられていますが、30㎝ものさしと同じ高さあります。書くことがあれだけ嫌いだったA子は本当に頑張ったと思います。結果、合格することができました。

 

 A子の指導を通じて、私たちの取り組みが教育活動であるということを改めて認識しています。A子自身の課題だった部分を改善していくということと、避けられない受験というものをポジティブな目標設定としてとらえ、取り組んでいくということです。

 

 ある人が「なぜ本人がやりたがらないことや苦手とすることを無理やりさせようとするのですか?」と尋ねられたことがあります。その言葉の真意は、その子にはその子なりの良さがあり、それを伸ばせばいいということだと思います。そのとき私は上手に答えることができませんでした。今も上手に言葉で表現できません。もし言えるとすれば、人間って成長するんです、という答えになっていないような言葉を返答することが精一杯です。

 

 

 

上記の記事のその後(2021年5月1日追記)

 

A子はその後、首都圏にある理系の大学へ進学し、勉強に励んでいます。

 

 

 

 

 

軽度知的障がい、発達障がい、

不登校児などグレーゾーンの子どもの

学習に関するご相談はこちらから

 

http://manabinoiroha.net/