グレーゾーンの子どものための学習支援教室 学びのいろは

通常のクラスでうまく適応できない発達障がい、軽度知的障がい、不登校の小中学生を対象とした学習塾 : 浜松

"普通"の存在になりたいと願った軽度知的障がいK君の挑戦

 

 

K君にはじめて会ったのが、中学校入学してからしばらく

の事でした。療育手帳を取得しており、知的クラスに在籍

していました。これまでの軽度知的障がいの子どもを何人

か指導をしてきましたが、中学生になって、九九が

全部きちんと覚えられいない、ひらがな・カタカナの

読み書きが完ぺきではないという生徒は私が知る限りでも

それほど多くいるわけではありません。

知的クラス中でも学習が進んでいる方ではありませんでした。

 

学びのいろはに入塾するケースは色々ですが、

K君のように、かなり学習が遅れているのにもかかわらず、

子ども自身が勉強をしたいという理由で入塾するケースは

珍しいです。

 

そんなK君がなぜ勉強をしたいと言い出したのかというと、

中学校に入学したときに通常級の子どもたちと一緒に

部活動に入部したことがきっかけでした。

 

 

 

先生がいなくても子どもたちだけで真面目に取り組む練習。

秩序やルールが一定程度守られている状況。目標を持って、

決まったこと以上に練習に打ち込む姿。

 

小学校からずっと支援級だったこともあり、こういった自発的

に取り組む同世代の子どもたちの様子を目の当たりにして、

この人たちと一緒の授業に出たい。こういう人たちが進む

高校で学びたいと強く思うようになったというのです。

 

 

 

確かに読み書きには難がありましたが、あいさつができ、

受け答えはしっかりしていました。それだけではなく、

人の話をよく聞き理解することができ、きちんと覚え、

家に帰って要点を外すことなく、きちんと保護者に伝える

ことができるのです。

 

当たり前のことのように思うかもしれませんが、生徒の

大半がこれができません。中には流暢に話すことができる

生徒もいますが、伝言となると、ポイントがずれていたりします。

 

勉強する強い動機を持っていたり、会話の中での要点を

しっかりつかみ取る力が備わっていること、性格がまじめで

一生懸命取り組むことなどの長所から、学習面での大幅な

遅れをカバーし、全日制高校の進学が叶うよう、

やれることは全てやってみようと思いました。

 

 

 

とはいうもの読み書きの学習は難航しました。

最初のころ、音と文字が関連付けさせてるために、音読学習

に取り組んだのですが、日本語として意味が分かるような

音程で発音することができませんでした。

 

読みあげることが精いっぱいで言葉の意味が分からないまま、

文字通り一文字一文字を読み上げているという状況でした。

 

そこで、色々試行錯誤した結果、K君には古典の音読をさせる

ことにしました。意味は分かりにくいですが、

音にリズムと躍動感があり、慣れると意味を伝えることを主眼

とした現代文よりも、文字と音との結びつきが

体感しやすかったようです。

 

この学習をきっかけにひらがな・カタカナを習得していくことへと

つながっていけたと思います。

 

九九に関しては、読み上げ暗唱が苦労しました。

イチ、シ、シチの発音がしにくかっただけでなく、音だけでは数字

の区別が付きにくかったようです。特にそのあたりの答えが

あいまいになっていたことがわかりました。

 

国語とはアプローチを変え書いて覚えさせるやり方にしました。

その結果、順調に九九を習得することができました。

 

このように述べると、順調のように思われるかもしれませんが、

ここまで来るのに半年かかってしまいました。

高校入試から逆算して考えると、算数はもう筆算をしている

余裕はなく、国語は漢字を書けるようにするという学習は削る

しかありませんでした。

 

算数は、分数に取り組みました。かけ算は九九を発展させた

形で教え、それで理解することができたので良かったのですが、

足し算に関しては苦戦しました。通分は、足し算の計算なのに

かけ算をする。通分の後に分母はたし算せず、分子だけ

足し算をする。足し算した答えが約分する必要があれば約分を

しなければならない。

 

過程が多く、判断しなければならない箇所もあり複雑。

分数計算のそもそもの意味の説明もはさみながら、

結果として分数に1年を費やすことになってしまいました。

 

 

 

2年生になりました

 

全日制高校の進学するためには内申点が必要です。

内申点を得るためには3年生の段階で通常級に異動して

いる必要があります。通常級に異動の希望は2年生の

1学期末までに要望しなければなりません。

 

そんな状況の中、1年生の終わりに受けた模擬試験は、

5教科合計してやっと2ケタという状況でした。

 

そのような状況ではありましたが、本人の通常級の異動を

強く希望していました。そこで私の方から実技科目で

交流級ができないか、学校の方に相談してみてはと

お母さんにアドバイスをしました。1学期の途中からですが、

学校も対応をしてくれました。教科は体育と音楽でした。

 

ところが初めて参加した時に、体育の先生がよくわかって

いなかったらしく、

 

「知的クラスの子が間違ってこちらに来ている」と、

みんなの前で言うというようなトラブルがあったり、

音楽の授業に関してはリコーダーを使う授業で、

リコーダーを持っておらず音楽の授業は笛を吹かず

ただぼーっと座っているだけというような状況で授業が

進んでいたということを後で知りました。

 

 

 

学校の方としてはお母さんが通常級のクラスの雰囲気を

味合わせたいぐらいにしか思っていなかったようです。

 

口頭だときちんと要望の趣旨と内容が伝わらないことが

分かったので、1学期末に行われる三者面談は要望を

伝える最後の機会になるので、失敗はできません。

 

そこで、宛先は校長先生、担任の先生に渡すという

手紙作戦に変更しました。

 

 

 

要望の内容は次の通りです。

 

1、全日制高校を受験したいので、中3に進級するタイミング

で通常級に異動したいこと。

2、5教科のどの教科でもいいので、交流級を実施してほしい。

3、通常級の生徒が購入している副教材をを買いそろえたい。

 

これを受け取った先生はかなり衝撃を受けたようです。

無視をするわけにはいかず、校長先生には要望書は

すぐに手渡されたようでした。

 

 

 

2学期が始まりました。

 

学校からまたお母さんが呼び出されました。学校は手紙の

内容の要望が今現段階でも同じかどうかの意思確認が

目的でした。お母さんは夏休み中に動いて欲しかったのに、

なぜ今頃になって動くのか、

逆に先生を問い詰めるような形になりました。

 

担任の先生も、本気だということが分かったため、遅ればせ

ながら教育委員会の方に要望を9月の段階であげました。

そして10月頃教育委員会通じて派遣された先生がK君を

見に来られました。

 

その翌月、教育委員会からの判定が来ました。

判定は紙で伝えられるケースは聞いたことがなく、K君の

場合も担任の先生からお母さんに口頭で伝えられました。

 

 

 

判定は、知的現状のクラスのままが望ましい。

ただし、最終的には本人と保護者が決めること。

 

お母さんは、迷いなく「本人と保護者の意思で決める」ことを伝えました。

 

 

 

翌日、お母さんの勤務時間中、学校から携帯に連絡が入りました。

「今日の夕方の5時に学校に来てほしい」とのことでした。

そのあとすぐに私のところに相談のメールがお母さんからありました。

 

「今から学校に呼び出されています。どのような話になるか分かり

ませんが何かアドバイスはありませんか?」

 

そこで私は次のように返信しました。

 

「先生の要件は一通りすべて聞いてください。もし、その場で

決断を迫られることがあるかもしれませんが、その場で判断

しないでください。一旦持ち帰ってください。それから内容を

私に教えてください。その上でどうするか検討しましょう。」

 

 

 

私の仕事が終わる夜の9時頃、K君のお母さんからメールが入っていました。

 

「要望はそのまま通しました」とのことでした。

 

後になってその時のお話を伺ったのですが、学校に出向いて

いったら、場所は教室ではなく、応接室。そこで待ち受けていた

のは担任、学年主任が、発達支援コーディネーター、そして教頭

と校長先生までいたというのです。

 

学年主任の方から、通常級に異動したあとの状況の大変さを

説明されたのち、知的クラスにとどまることをすすめられたとの

ことでした。

 

普通ならば、圧倒されて、学校側の意向に沿う形に流されがち

になりますが、逆にお母さんはチャンスだと思い、ハッキリと

「私たちの要望は手紙の通りです」と言い切ったそうです。

 

1人対5人というような面接はこれまで聞いたことがありませんが、

学校の先生から何度となく説得をされると、要望を現実路線に

変更するという家庭は一定数あります。

 

K君のお母さんのゆるぎない姿勢が、チャレンジできる機会を

つくってくれました。

 

 

3学期になりました

 

遅ればせなばら、要望出したにて副教材が手に入りました。

特にワークと呼ばれる副教材は、定期テストまでに提出し、

内申点の評価対象になるものです。3年生になってからの

練習ということの意味合いもあり、1学期からの全てのページを

家庭学習で取り組むようにK君に伝えました。

 

もちろん一人でできません。ですので、答えを見て書き写すので

いいからと指示しました。

 

正直言って苦行だったことでしょう。内容が何が書いてあるか

わからないからですから。でも頑張って全教科、全ページを

3学期中にやり終えました。

 

提出しても学校からは何の評価もされませんでしたが、

通常級へ異動したという要望と意思を本人が行動で示した

形になりました。

 

 

 

3年生になりました

 

念願の通常級に異動することができました。しかし、そこは

K君が期待していた様子とすいぶんと異なるものでした。

 

K君の中学校は1つの小学校から持ち上がりで入学してくる

ため、もう8年間のなかで人間関係は固定化されていることや、

受験の学年ということもあり、皆でわいわい仲良くするという

ような雰囲気も薄れてきており、結局友達と呼べるような存在

はえられず、一人で過ごすことが多かったようです。

 

授業についていくのも大変でした。特に多変だったのが、

時間内に板書を書き写すということでした。

書かなければならい分量とスピードが予想以上でした。

 

そんな中でも6月の定期テストの結果は、理科が健闘しました。

3年生になってから塾でも取り組み始めていました。

理科用語の漢字の読み、重要語句の音読や穴埋め問題、

そして短文による説明などの学習をしました。

 

特に短文による説明は現象などの特性を短い文で記述する

ということでより理解と定着を促すことができたようでした。

 

 

 

二学期になりました

 

夏休み中に、文字式、方程式、連立方程式、展開、因数分解

の計算が解くことができるようになっていました。

ただし、色々な問題を混ぜてしまうと、いったいどの計算方法で

解けばいいか区別をつけることができませんでした。

 

それだけでなく、これまで出来ていた問題もできなくなってしまう

というような状況が起きていました。結局後半は混乱してしまった

ものをもう一度基礎からやり直すということに時間を費やす形に

なってしまいました。

 

結局、スランプを脱することができないまま二学期に突入しました。

 

学校では二次方程式や二次関数などに進んでおり、それらが

また理解を混乱させてしまうというようなことになってしまい、

苦戦が続いていました。

 

一方、理科に関しては夏期講習中に1、2年の内容の復習に

時間があてることができ、2学期の内容もその基礎が理解を

助けてくれました。

 

さらに知識を上乗せする形で理解が進めることができたよう

でした。ただ、分量が多く、何かを覚えると、何かを忘れるという

状況だったので、

「このポイントだけは抑えよう」

とある程度こちらで山を張り、覚えられる分量に絞り込みました。

自分なりにしっかり復習をし、点数を積み上げることができていました。

 

 

 

そしていよいよ、2学期が終わり、高校に提出する成績が

確定しました。内申点は全日制の私立の志望校の合格ラインと

見ていた点数から2点足りていませんでした。

国語と英語が足を引っ張ってしまっていました。

 

受験する高校は理科が受験科目に無いために、冬期講習では、

伸びしろがありそうな数学に専念する作戦で挑みました。

内容も受験校の過去問へと切り替えました。

 

そうしたところ小学生の範囲の分数小数が出題されていました。

分数は頑張って教えたから大丈夫だろうと思っていたのですが、

文字の入っている分数と文字の入っていない分数をちがうもの

ととらえてしまい、混乱をしてしまいました。

 

受験を目前にしてまたスランプに陥ってしまったのです。

 

 

 

これまではスランプになってもK君自身が焦ることはなく、

こちらの言われたことを1つずつとりくんで、改善していっていた

のですが、時期も差し迫っていることもあり、この時は、

K君自身が焦り始めました。

 

物理的な時間だけを考えれば、もうやるべきことから逃げずに

やるしかありませんでしたが能率が低下していく様子をみて、

入試には全く関係のない得意の理科も学習も織り交ぜるように

してみました。

自信を少しずつ取り戻してくれているように感じました。

 

 

 

3学期になりました

 

入試ということだけ考えれば、学校に登校する必要もなく、

ワークや宿題もやる必要もなく、入試の勉強だけに専念する

ことだと伝えました。もちろん学校には登校していましたが、

宿題には手を出さず、理科も取りやめ、入試の対策の学習だけ

に専念しました。

 

そしていよいよ入試の日がきました。

3学期にはいってからのこの一か月間は非常に充実した学習が

できました。色々な問題がでても区別を付けることができるように

なっていました。風邪をひかずその日を迎えられたので、

いけそうな予感がしていました。予感というより、そう祈っていました。

 

そして発表の日。

連絡が来てもよさそうな時間になっても連絡が来ませんでした。

そろそろ小学生の授業がはじまろうとする夕方になってから

連絡がありました。

 

 

 

合格でした。

 

 

 

本人もお母さんも、当日の試験が手ごたえがあったので受かると

思っていたようで、いたって冷静に発表を迎えたようでした。

 

これは当たり前の結果ではなく、奇跡です。

 

 

 

 

追記:2021年5月

 

高校に入ってからの状況を教えてもらいました。

療育手帳を取得していることは学校に申請せず、

合理的配慮の方望も出していないとのことでした。

 

学業の方は国語が学年で下から3番で補習対象に

なっているが、数学は平均点だったとのこと。

そのほかの教科も決していいとは言えないが、

赤点を逃れているとのこと。

 

学校生活の面では、今までの人生の中で一番

楽しそうだと。これまで友達といえる存在がいなかった

のに、ものすごくたくさんの友達ができ、

高校生活を満喫しているとのことでした。